ヨコヤマのたこやき
 葵区紺屋町「たこやきのヨコヤマ」が十一月二十四日で閉店した。六十年営業したそうである。私にとっては幼い頃から親しんだ味だった。「大阪風」たこやきがチェーン店化され、どこでも食べることができる現在と違い、まだ静岡では口にすることができなかった頃の話。
 私が大学生のとき、友人が大阪出身だったので、大阪へ遊びに行って初めて大阪名物たこやきを食べた。生まれてから、たこやきと言えばヨコヤマのたこやきしか口にしたことのなかった私は、大阪のたこやきを初めて口に入れて、すぐ吐き出してしまった。そして友人に言った。
 「このたこやき、半生じゃん!」
友人は驚いて言い返した。
「外はカリカリ、中はジュワーッ、これが大阪のたこやきの旨さやっ!よう覚えてけっ!」
 その友人が、今度は静岡に遊びに来たので、ヨコヤマのたこやきを食べさせた。そのとき、
こう言った。
 「阪神のバースが言うとったわ。『海を渡ったら野球というベースボールによう似た、もう一つのスポーツがあった』と。このたこやきはバースの言っとることと同じやなぁ。でも、旨いで! 大阪とはちゃう別のたこやきやっ!」
 これがすべてである。静岡市の下町グルメの王様、ヨコヤマのたこやきが、静岡の食文化であることは、コテコテの大阪人の友人が二十年以上も前に認めてくれたのである。
 ヨコヤマのたこやきよ、永遠の別れは悲しすぎるぜっ! いつか復活してくれることを望む。ちなみに、閉店ラストのたこやき購入者は、偶然だが、私と娘、そしてヨコヤマの元アルバイトである、うちの奥さんだった。縁を感じる。

| 大石精肉店 | 15:57 | comments (0) | trackback (0) | - |
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